— 以下の記事は2025年10月〜11月に各地方新聞に掲載されたものです。拙著「庵の人々」に写っている小川さん(今も公園でホームレス生活)のブログが書籍化された際に、 書評を書きました。 小川さんは公園生活20年です。積み重なった日々、本も分厚いです。—
世界の始まるべき地点(ホームレス文化 小川てつオ 著 キョートット出版)
本のタイトルから、先入観で貧困や孤独などを思い浮かべ、ホームレスの薄暗い問題ばかりイメージする方が多いかもしれない。しかし本書はそれとは異なる。
公園に暮らして20年となる著者のブログを基にした長年の記録は、生活の細部や人々との交流が、社会の動きも含めて実に実に色とりどりにつづられている。
「ホームレス」は直訳すると「家のない」ことであるが、世間一般的な住宅ではなくとも、本書に登場する多くの人はブルーシートや廃材で個性豊かなテントや小屋を作っている。
ホームが持つソフトな意味の「居場所」「わが家」といったものは、「テント村」と呼ばれる、人々のコミュニティーや、著者が開く物々交換カフェ「エノアール」に確かに存在している。本書で描かれる生活は世間が抱くホームレスの既成概念を超えており、そこで織りなす事象は紛れもなく「文化」として醸成されている。
私は彼らのような暮らし、多様な人生、生きる知恵について考えさせられ、公園や河原で生活する人たちの撮影を続けて写真集を出版した。本の著者も被写体となっている。エノアールにも何度も遊びに行った。
著者は矛盾や問題も大いにあるとした上で、ホームレスの存在を「もう一つの世界の始まるべき地点」として、その存在の可能性をうたって生活している。
今に限ったことではない。いつの時代もホームレスは存在している。家・土地の所有、住所といった概念が存在する前、もっと大昔から。大げさに言うと人類最初はみなホームレス状態であり、そこから歴史は始まっている。本書を読むとそんなところにまで想像が膨らむ。
ホームレスなんてと人ごとに思う人ほど、本書を読んでみると、さまざまな視点が得られるのではないだろうか。ちなみに著者自身が描いた表紙や挿絵もなんだかゆるく、脱力感があり乙である。
(野口健吾・写真家)
