2021年夏。2年ぶりに開山となった富士山。昨年は新型コロナウイルス感染拡大防止の為、近代以降広く登山が一般的になってから史上初の閉山となった。
一年経ってコロナの猛威は収まってはいない。さらには緊急事態宣言さなか、1日に800人程が頂上を目指し登っている。午前4時半、登山道は御来光目的の人々の列で渋滞し、高所で空気が薄い為マスクを外す人も多い。
人はなぜ富士山に登るのか。そして山頂での御来光を目指すのか。
そこには単なる「日本一の高さの観光地」に登るという事だけではなく、そもそも本来は御神体や霊峰に向かう、「信仰の対象としての富士山」があるはずだ。
古からの仏の世界。気持ちばかりのソーシャルディスタンスで数百人がじっと夜明けを待つ。聖と俗が密になる領域。
人それぞれが様々な思いを抱いている。そしてまた新たな日を感じたいと願っているのだろう。
見方を変えれば、この世は人類だけの世界ではない。動植物にとっても、はては微生物、ウイルスにとっての世界でもあると言える。
日本最高峰の頂に立ってのごく個人的な達成感、温かい御来光のありがたさと同時に思ったことは、ほんの小さな存在でしかない我々は、何に対しても決して傲慢にならず、自然という見えない大きな力を畏れ敬うという精神性を、今一度見直し培うことが必要なのかもしれない。
のぐちけんご 写真家
富士山頂での夜明け
2021年8月11日