庵の人々_03_ジンザイ

2010年5月、浅草で野宿した後、隅田公園の道路脇でAさん(62か63歳)に会った。以前はHさんの小屋に居候していたAさんだが、並びの一番奥の小屋が空いたらしく、そこに住んでいた。犬小屋が少し大きくなったくらいの広さである。私は宝焼酎を差し入れた。それをちびちび飲み、小屋の中で小さく丸まりながらAさんは話し出した。

 

新潟生まれ、小さい頃親父が死に、貧乏の中兄貴がいろいろ面倒見てくれた。スポーツ万能で、甲子園に出たことがある。大学に行き将来は先生になりたかったが、余裕がなく、高卒で消防士になる。看護師の女性と結婚し子供2人に恵まれる。

 

しかしその後、職場の部下の借金の保証人になったのが災いし、800万円の負債を被る。最初ギャンブルで返そうとしたが無理で、結果3000万ほどに膨れ上がる。最終的に仕事を辞め退職金をつぎ込む、そして住んでいたマンションも売却した。

 

「小屋暮らしホームレスははっきり言って楽すぎる。だけど、いつまでもこんな生活ではダメ、社会復帰しなきゃいけない。かかあとも、もう一度やり直してぇと思っているんだ。」とAさんは言った。

 

今の自分ではダメだ、社会復帰したい、仕事したい。私が出会う中では、かなり真面目なタイプの庵人である。

 

そもそもは、部下の借金が元凶でこの生活になってしまったというのに、いやむしろ違う、だからだろうか、

「人間は気持ちが、思いやりが一番大事。」とAさんは言った。

 

そして上から「人財、人材、人在、人罪、4種類のジンザイがある」と。

 

1kg集めてでやっと100円ほどのアルミ缶回収をやっている生活なのだが、「缶コーヒーくらい出す金はある」と言って聞かず、ごちそうしてくれた。

この人の根本的な人柄が出ていると思った。

東京都台東区 2010