–この文章は河川敷に住むある庵の人が綴った手記(原文ママ)である–
ガキ連
「オッチャーン! テント張りたいけど、どうやったらいい?」
「なんやて?・・・・テント?」
たまに来る悪ガキ3人組、中一と小五の兄弟、中一の友達といったところか、汚ないブルーシートをかかえている。
「なんやァー・・・今からホームレスになるつもりか?早すぎるでェー!」
「ちゃう、ちゃう・・・・家出してきたんや」
「なんやて?イ・エ・デ? オゥ結構、結構、家出結構、なる程、それでテントか、ほなら、めしはどないするつもりや?」
「お菓子もってきた、500円玉も一枚もってる」
「オウ、オウ そんなら大丈夫や、フフッ!」
「よし!針金とペンチを貸してやる、いい場所も教えたる。けんど、オッチャン手伝わへんで。自分達で作るんやで!」
色んな子供が停留所に遊びに来る。石を投げての水切りも、カニの取り方も知らない子が多い。ただ、今日の子等、冒険心だけは少し持っているようだ。
ワシも子供時代、秘密基地を作ったっけ。遠い昔を思い出す。
「オッチャン!手伝ってくれへんの!」
「アホ、オッチャンが手伝うと扇動したことになるやろ!」
「センドウって?」
「ン、船のセンドウやないで!つまりな、何ちゅうかケしかけたことになるやろ、坊主らの親がきたら、あとあともめるやろし、オッチャンはそういうのがいやなんや!」
「親なんて来(き)いへんー!」
「わからんでェ、親は子供が可愛いもんや、ましてな、今モンスターペアレンチとかがはやっとるとラジオでゆうとったし。ン?レンチやなくてペンチやったかな?」
この停留所に来る子らは塾とは縁のない子が多い。案外親もほったらかしタイプかもしれない・・・・が、家出にはちょっとあせるやろ。兄弟以外のもう一人はおもしろがってついてきた感じだったので、一人の時、こそッと言ってやる。
「携帯、持っとるやろ、あとでこっそり連絡しとき!」
「・・・・ウン。」
適当な場所を教えてから言ってやる。
「エエか!そこで寝てもエエけどな、河川敷は怖いこと一杯あるんやで、気いつけや!」
「エ、なに、怖いことって?」
「ンー、まんず放火、そんで野犬もおる。たまに人間の死体も流れてくる。ネズミ、イタチ、一番は虫やろな。ダニ、クモ、ムカデ、ハサミ虫、ナメクジ、それからヤブ蚊、このへんのヤブ蚊はさされるとものすごくかゆい、咬むアリもおる。へてから、背中の赤いクモには気いつけや。セアカゴケグモいうて毒持っとるのがどんどん増えとる。」
「ダ、大丈夫やそんなもん!全然怖くないワー」
「火使ったらあかへんで!煙見たらすぐ警察官がきて家出も終りや」
「ワカッタァー」
昔の子供は日が暮れる迄遊んでいたもんや。と思いながら停留所に戻る。
いろんな子が遊びにくる停留所だが、女の子は小学生迄かな、中学生になるともう来ない。
そんなところに近づいてはいけません!あぶないでしょ!ホームレスというのは人間のクズなのよ!遠くから、近くから、何かと聞こえてくる。
ワシはその声に反発し、子供らがきたらよく言うセリフがある。
「オッチャンはえらいんやで、自分でめし食うとる!」
「エヘッ、そんなの当たり前や!」
「アホッ、自分で生活しとるという意味や。アルミ缶なんかを売ってな。仕事さえあればいつでもでて行ったると思ってるんやが、60過ぎると誰も使ってくれへん。オッチャン土木仕事しか知らへんし年金もないワ。けんど頑張って生きとるんやで。」
「ヘェー、オッチャンずーっと頑張ってるんや。」
「そうやでェー、世の中、ひと様の金で生きとる人間が多すぎると思うとる。坊主らもそうやで・・・・。親に飯食わせてもろうとるやろ、小づかい迄もろうとるな!」
「そんなの当たり前や」
「当たり前じゃない!!ま、子供じゃから仕方ないとは言えるがナ、ン、そういえば今日本で一番えらい人がたくさんの小づかい守ろうとったなァー・・・・アッハハー。」
「アーテレビで言ってた総理大臣やろ、何オクとか?・・・・オッチャン1億円てどの位やろ?」
「アホか、ワシに聞くな!オッチャンは見たこともさわったこともないワー!」
家出の子ら、子供なので、やはり火が心配である。時々見に行く。暗くなってもワイワイ、ガヤガヤやっていたが夜8時過ぎかナ、誰もいなかった。おどしがきいたかな!死体といった時は目を丸くしてたな。ヤレヤレ、帰って良かった。